バイバイ
まだ弟が一人しか居なかった頃、県の一番西側にある湖のほとりの町に行くことになった。
じいちゃんが死んだと言う。
父は養子である。この時亡くなったのは父と血の繋がった父であった(当時はよく分からなかった)。
歳の近い親戚が3人居る家である。当然の如く子供たちが集まって、セミやカブトムシ取り大会が始まった。
汗だくになって広い庭を駆け回って遊び、午後には疲れて昼寝をした。
目が覚め、家の中の様子を伺うと、沢山の親類が訪れてはお線香をあげてお茶を飲んで帰って行く。
それを遠くから眺めながら考えた。
『死ぬって何だろう?』
死ぬと居なくなるらしい。
よく分からない。じいちゃんに会えると思って来たのに、家のどこにも居ない。
よく分からないまま、夜には家に帰った。
家族で晩ご飯を食べた後、一人でトイレに行った。
実家のトイレは裏庭に面した長い廊下の先にある。
用を足して、再び廊下に差し掛かった時。
誰かに呼ばれた気がして立ち止まった。
廊下には誰も居ない。
カーテンを開けてみた。
光に照らされた裏庭で、じいちゃんがこちらに向かって笑顔で手を振っていた。
夢中でバイバイした。
じいちゃんは笑顔のままですーっと上に昇って行き、そのまま見えなくなった。
見えなくなるまで手を振り続けた。
どれくらいそうしていただろう。
気が付いた時には、裏庭は真っ暗になっていた。
それ以来、廊下を通る度に時々カーテンを開ける癖がついたけど、あれっきりじいちゃんが遊びに来ることはなかった。