不思議不可思議

風に吹かれて西東

トイレの花子さん

小学校低学年で関東の内陸部に引っ越した。
海が無い町の夏は恐ろしい程暑く、冬は信じられないくらい寒い。

関東の気候にも大分慣れた頃、具体的には小学5年生の冬である。
僕は南棟4階にある女子トイレの前に立っていた。

トイレの入り口で

『花子さん花子さん出ておいで』

と3回唱えてその場で一回転すると、一番奥の開かずの個室から花子さんが出て来ると言う噂を聞いたからだ。

本当に花子さんが出て来るのか?
その頃はゲゲゲの鬼太郎の影響で、妖怪を見たいと言う好奇心が抑え切れなくなっていた。

放課後、4階に誰も居ないことを確認し、トイレの中に入る。

「花子さん花子さん出ておいで
花子さん花子さん出ておいで
花子さん花子さん出ておいで」

唱えて回った瞬間。

ガチャン、バターーーーン

物凄い音がトイレに鳴り響いた。
思わずトイレを飛び出し、一目散に階段を走り降りて南棟を出た。
後ろを振り返ってみたが、誰も居ない。
暫く辺りで様子を伺ってみるも、誰も出て来ることは無く、扉は間もなく用務員さんに施錠されてしまった。
音を出したのは誰だったのだろう?

後日、同級生たちと花子さんの話をしたが、どのクラスの子も怖くて試したことが無いと言う。

この小学校には他にもドアごと白く塗り潰された開かずの間や、誰も居ないのに本のページを捲る音がする図書館等の七不思議があったが、残念なことに忘れてしまった。

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バイバイ

まだ弟が一人しか居なかった頃、県の一番西側にある湖のほとりの町に行くことになった。
じいちゃんが死んだと言う。

父は養子である。この時亡くなったのは父と血の繋がった父であった(当時はよく分からなかった)。

歳の近い親戚が3人居る家である。当然の如く子供たちが集まって、セミやカブトムシ取り大会が始まった。
汗だくになって広い庭を駆け回って遊び、午後には疲れて昼寝をした。

目が覚め、家の中の様子を伺うと、沢山の親類が訪れてはお線香をあげてお茶を飲んで帰って行く。
それを遠くから眺めながら考えた。

『死ぬって何だろう?』

死ぬと居なくなるらしい。
よく分からない。じいちゃんに会えると思って来たのに、家のどこにも居ない。
よく分からないまま、夜には家に帰った。

家族で晩ご飯を食べた後、一人でトイレに行った。
実家のトイレは裏庭に面した長い廊下の先にある。
用を足して、再び廊下に差し掛かった時。
誰かに呼ばれた気がして立ち止まった。
廊下には誰も居ない。
カーテンを開けてみた。

光に照らされた裏庭で、じいちゃんがこちらに向かって笑顔で手を振っていた。

夢中でバイバイした。
じいちゃんは笑顔のままですーっと上に昇って行き、そのまま見えなくなった。
見えなくなるまで手を振り続けた。

どれくらいそうしていただろう。
気が付いた時には、裏庭は真っ暗になっていた。

それ以来、廊下を通る度に時々カーテンを開ける癖がついたけど、あれっきりじいちゃんが遊びに来ることはなかった。

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死後の結婚式

幼い頃、祖母に連れられてよく親戚の家を訪れていたのを覚えている。生まれ育ったのは東北の田舎町だ。
ある日、いつものように県西部の親類宅に訪れたことである。祖母と親類とで、家を出て暫く歩いた所にある古い家屋に連れて行かれた。
奥の間へ通されると、天井まであるような大きな祭壇があった。折り鶴や、菓子類で溢れている。
その中央に、2体の人形のようなものが飾られていた。
祭壇の前に座っていた小柄な人物が傍らの鐘を鳴らし、その不思議な儀式は始まった。
長い長い祈りが捧げられる。線香の煙が室内を満たし、次第に声は悲しげな色を帯びてゆき、何度も誰かの名前を読み上げては鐘が鳴らされた。
小一時間程だろうか。すっかり眠くなってしまった自分は、うとうとしながらその様をぼんやり眺めていた。

帰り道、祖母にあれは何?と訊ねてみた。

「亡くなった人の結婚式だよ」

結ばれるはずの二人が、不幸にも亡くなってしまった時に行われる儀式だと言う。
まだ“死”と言う概念を知る前であったが、子供心に見てはいけないものを見てしまったかのような、そんな気持ちに襲われたことを覚えている。

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真田山陸軍墓地

2016年の秋に大阪へ行った。

行き先は難波で、宿泊地は上本町。仕事では馴染みのある地名だったが、実際に訪れたのは初めてのことだ。

当時は大河ドラマ真田丸」が放送中で(あまり詳しくは無かったが)、駅のあちこちに大きな看板やポスターがあった。調べてみると、その真田丸跡地はホテルから近い様子。朝食後、ふらりと外へ散歩に出た。

 

まず、真田山公園を目指して歩く。徒歩20分少々だろうか。坂道が多く、なかなかに歩きづらい。公園を横目に歩いていると、真田山小学校の西側の路地に迷い込んだ。

ふと、風が吹いて来た。

秋口とは言え、歩き通しで汗もかいていたので冷たい風が気持ち良かった。

暫く立ち止まり、風に吹かれるまま空を仰いでいると、どうにも不思議な気配を感じる。辺りを見回してみると、近くに楠の林が見えた。しかし、周囲は高い壁に囲まれており、どうやってそこへ行けば良いか分らない。

その時、ちょうど向こう側から犬の散歩をしている女性が通り掛かったので道を尋ねたところ、何と民家の敷地内を通る通路を案内してくれた。狭い木戸をくぐり抜けると、草地のある墓地に出た。

楠に抱かれるように立ち並ぶ、大きな石碑があった。

木々を吹き抜ける風がさわさわと耳の側を流れてゆく。

静まり返ったその場所は不思議な居心地で、ただ暫く目を閉じて何かに祈らずにはいられなかった。

 

帰宅後、どうにも忘れられずに色々と調べたところ、祖父が赴いた戦争で亡くなった方々を祀る場所だと分かり、あの不思議な気配は祖父の同僚や上官達では無いかと思うに至った。

数千の御霊を祀るあの場所が、これからも静かで平穏であることを願ってやまない。

 

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