不思議不可思議

風に吹かれて西東

死後の結婚式

幼い頃、祖母に連れられてよく親戚の家を訪れていたのを覚えている。生まれ育ったのは東北の田舎町だ。
ある日、いつものように県西部の親類宅に訪れたことである。祖母と親類とで、家を出て暫く歩いた所にある古い家屋に連れて行かれた。
奥の間へ通されると、天井まであるような大きな祭壇があった。折り鶴や、菓子類で溢れている。
その中央に、2体の人形のようなものが飾られていた。
祭壇の前に座っていた小柄な人物が傍らの鐘を鳴らし、その不思議な儀式は始まった。
長い長い祈りが捧げられる。線香の煙が室内を満たし、次第に声は悲しげな色を帯びてゆき、何度も誰かの名前を読み上げては鐘が鳴らされた。
小一時間程だろうか。すっかり眠くなってしまった自分は、うとうとしながらその様をぼんやり眺めていた。

帰り道、祖母にあれは何?と訊ねてみた。

「亡くなった人の結婚式だよ」

結ばれるはずの二人が、不幸にも亡くなってしまった時に行われる儀式だと言う。
まだ“死”と言う概念を知る前であったが、子供心に見てはいけないものを見てしまったかのような、そんな気持ちに襲われたことを覚えている。